人間産業としての温浴事業を牽引する広島の経営者

─ ゲーム業界から転身した経営者が見つけた答 ─
温浴市場は装置産業にあらず、人間産業である
広島県民には、新しいものを積極的に受け入れる気質があると言われる。
一方で、気に入ったものは長く大切にする。流行だけでは動かず、自分自身が体験して納得したものを選ぶ傾向も強い。
そんな広島で、三つのスーパー銭湯を運営し、今年四施設目の開業を目指している経営者がいる。
三年前には、コロナ禍と資材高騰という逆風の中で新店舗を立ち上げた。そして今、さらに物価高が続く不透明な時代の中で、閉鎖された温浴施設の再生という難しいプロジェクトに挑んでいる。
その人物が、株式会社スパライフ・コミュニケーションズ代表の大供さんだ。
「毎日、お客様と一緒に風呂に入っています」
話を聞いていて、最も印象に残った言葉がある。
「僕は毎日、営業中に店のお風呂に浸かっています」
経営者が施設を巡回する話は珍しくない。しかし、お客様と同じ時間に、同じ湯船に浸かるという話はそう多く聞かない。
理由を尋ねると、こう続けた。
「お客様と同じ目線にならないと、何が心地良くて、何が不満なのかわからないんです」
温浴施設は、湯を張り、設備を整え、マニュアル通りに清掃すれば営業はできる。
しかし、それだけではお客様は通い続けてくれない。
毎日来てもらうためには、毎日お客様目線で施設を見ること。
その言葉には、長年現場に立ち続けてきた人ならではの実感があった。

ゲーム業界から温浴業界へ
大供さんの社会人としての出発点はゲーム業界だった。
ゲーム機器メーカーであるナムコ(現在のバンダイナムコグループ)に所属していた。
その後、ナムコが温浴事業へ参入することになり、子会社へ出向。ゼネラルマネージャーとして、大阪、和歌山、北海道、広島などで施設運営に携わることになる。
しかし、その事業はわずか5年で撤退することとなった。
その時、広島で施設を所有する商業デベロッパーから運営継続を依頼される。
大供さんは決断した。
会社を辞め、自ら温浴事業を続けることを選んだのである。
こうして誕生したのがスパライフ・コミュニケーションズだった。
一号店の「アジアンリゾート・スパシーレ」から始まり、その後は福山の「ぐらんの湯」、そして2023年には広島県で11年ぶりとなる新規大型スーパー銭湯、「スパシーレ祇園」を開業。
さらに2026年、呉市で閉鎖された施設の再生事業に着手し、「スパシーレヤマト」として再出発させようとしている。
装置ではなく、人が価値をつくる
大供さんが独立を決意した背景には、ゲーム業界と温浴業界の大きな違いがあった。
ゲームセンターでは、常に新しいゲーム機が求められる。
人気機種を導入できなければ、お客様は離れてしまう。
そこでは装置が主役だ。
しかし温浴施設は違う。
大きな投資をして施設を作っても、それだけでは人は通い続けてくれない。
湯加減。
清潔感。
居心地。
スタッフの対応。
館内の空気感。
そうした積み重ねが、また来たいという気持ちを生み出す。
「装置産業ではあるが、装置以上に大切なものを提供しなければいけない」
大供さんの言葉を聞いていると、温浴施設は設備を売る商売ではなく、人の時間を預かる商売なのだと感じる。
現場を知る経営者
現場の話になると、大供さんの言葉の温度が少し上がる。
「お客様目線になることが一番大事ですね」
この言葉は、温浴業界を長く見てきた私自身にも強く響いた。
現場から離れた経営者の施設は、どこか空気が違う。
スタッフとの距離感にも、それは表れる。
実は私は、大供さんの施設を数日間訪問し、現場を見る機会があった。
印象的だったのは、スタッフとの距離の近さである。
社歴の長いスタッフも多い。
創業当時から働き続けている人もいる。
単なる雇用関係というより、同じ施設を育ててきた仲間という空気があった。
だからこそ、大供さんはこう言い切る。
「長く勤めてくれる仲間がいることが、一番幸せなことなんです」
そして、
「雇用を守ることが経営者の使命だと思っています」
とも語った。
言葉だけではない。
現場を見れば、その考え方が共有されていることが伝わってくる。
炭酸泉を導入して終わりではない
現在運営する施設には、炭酸泉が導入されている。
しかし大供さんは、炭酸泉を単なる人気設備として捉えていない。
「導入して終わりでは意味がないんです」
炭酸泉の浴槽では、多くのお客様がうとうとしている。
実際に眠ってしまう人も少なくない。
それだけ心地良い空間になっているということだ。
だからこそ、その価値を伝える必要がある。
知っている人だけが利用するのではなく、初めて来た人にも体験してもらう。
最近では、サウナとの組み合わせにも注目しているという。
炭酸泉で体を温めてからサウナに入る。
すると発汗が早くなり、より深く温まりやすい。
設備を置くことではなく、その使い方を伝えること。
そこにもまた、人を中心に考える大供さんらしい発想が見える。
人間観察の先にあるもの
最後に、大供さんはこんな話をしてくれた。
現在のゲームセンターで最も人気があるのは、最新鋭のゲーム機ではない。
UFOキャッチャーだという。
昔からあるシンプルな装置だ。
大切なのは機械ではない。
どんな景品を置くか。
人が何を欲しいと思うのか。
何に興味を持つのか。
そこを見続けることだという。
「今になって思うんです。当時の会社が気づいていなかったことが、今のゲーム業界で起きている。そして、この20年温浴事業でやってきたことと同じなんですよ」
その言葉を聞いていると、温浴もゲームも、本質は変わらないのかもしれない。
人を見て、人を知り、人の気持ちを考える。
その先にしか、本当に長く愛される場所は生まれないのだろう。
広島気質の人たちが集まるこのまちで、
今日もまた、大供さんはお客様に混じって湯船に浸かっている。
株式会社スパライフ・コミュニケーションズ
アジアンリゾート スパシーレ https://seare.jp
スパシーレ 祇園 https://spaseare-gion.jp/
スパシーレ ヤマト(近日開店) https://seare.jp/news/20947.html
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