「スタッフの味方?」という仕事

「スタッフの味方?」という仕事―湯の華廊を22年間支えてきた、生え抜き支配人の現場哲学―

―湯の華廊を22年間支えてきた、生え抜き支配人の現場哲学―

金色の温泉と、下町の人情が交わる場所

兵庫県尼崎市と伊丹市の境界近く。
大型ショッピングモール「つかしん」の一角に、天然温泉施設「湯の華廊」(ゆのかろう)はある。

この施設の露天風呂には、有馬温泉と同じ系統の“金泉”が湧いている。
鉄分と塩分を多く含んだ茶褐色の湯は、高張泉特有の力強さがあり、湯に浸かった瞬間に「温泉に来た」という実感を与えてくれる。

都市部のスーパー銭湯で、これほど濃厚な泉質に出会える施設は、関西でもそう多くない。

大阪からも神戸からもアクセスは良い。
JRや阪急電車からも近い。

それでも、この施設を支えているのは観光客ではない。
毎日のように通う、地元の常連客たちだ。

受付から浴場へ向かう渡り廊下。
庭園を眺めながら歩くその時間には、どこか旅館のような静けさがある。

外国人観光客に知られれば人気になりそうな風景だが、不思議なくらい、ここには地域の日常が流れている。

その空気感は、施設を運営する会社の姿勢とも重なる。

湯の華廊を運営するグンゼ開発株式会社は、大手繊維メーカー・グンゼのグループ会社だ。
工場跡地を再開発した「つかしん」は、いまや地域のコミュニティそのものになっている。

だからこそ、この施設にも「地域の人を大切にする」という思想が自然に息づいている。

その空気を、22年間現場で支え続けてきた女性がいる。

ショッピング事業部 スパ営業部 部長兼支配人の大樋さんだ。

パートスタッフとして始まった22年前

大樋さんは、湯の華廊の開店時にパートスタッフとして入社した。

当時は、まさか自分がこの施設全体を統括する立場になるとは、想像もしていなかったかもしれない。

現場で働きながら、お客様と向き合う日々。
浴場での案内。清掃。接客。
スーパー銭湯の仕事は、決して華やかなことばかりではない。

それでも、毎日のように通ってくださる常連客との会話には、独特の距離感がある。

「今日も来たよ」

そんな何気ない言葉の積み重ねが、施設の空気を作っていく。

やがて大樋さんは、スタッフをまとめる存在として期待され、正社員となる。
現場仕事だけでなく、人や組織を動かす責任も背負うようになった。

そして現在は、温浴だけではない。
飲食、リラクゼーションも含めたスパ部門全体を統括する立場になっている。

けれど、話を聞いていて印象的だったのは、肩書きを感じさせない現場感である。

支配人として一番大切にしていることは何か。
その質問に対する答えだった。

「スタッフの味方であることです」

その言葉には、迷いがなかった。

「管理」ではなく、現場を守るということ

尼崎という街には、人情味がある。
その一方で、接客業だからこその厳しさもある。

中には、理不尽な要求をぶつけてくるお客様もいる。
いまなら“カスタマーハラスメント”と呼ばれる場面もあるそうだ。

けれど大樋さんは、そうした場面で、ただお客様側に立つわけではない。

お客様の言い分は正当か。
それとも行き過ぎなのか。

それを判断できるのは、自分自身が長年、現場を経験してきたからだという。

この話は、とても重かった。

私はこれまで、温浴施設のコンサルタントとして、多くの現場を見てきた。
その中には、お客様のクレームだけを鵜呑みにし、スタッフの話を聞かない責任者も少なくなかった。

そういう施設は、例外なく現場が疲弊している。

上から押さえ込むような「管理」は、チームを壊してしまう。
そして、チームが壊れている施設から、本当に良いサービスが生まれることはない。

大樋さんの「スタッフの味方である」という言葉には、その逆の思想がある。

スタッフが安心して働ける環境を守る。
だからこそ、チームとして良い接客ができる。

それは理想論ではなく、22年間現場に立ち続けてきた人の実感なのだと思う。

同期のパートスタッフは、今も“同志”

「同期で入ったパートスタッフが三人いるんです」

そう話す時の声色が、とても印象に残った。

開業当初から働き続けている仲間。
立場は変わっても、苦楽を共にしてきた存在。

「かけがえのない同志だと思っています」

スーパー銭湯という仕事は、人の入れ替わりも多い。
だからこそ、同じ場所で長年働き続ける関係性には重みがある。

一方で、現在は人材不足という大きな課題も抱えている。

以前、会社としては高校生アルバイトを採用しない方針だった。
しかし現在は、高校生も積極的に採用しているという。

もちろん、若いスタッフへの教育は簡単ではない。

・接客
・社会的な常識
・仕事への責任感

施設の質を維持しながら、それらを一つずつ伝えていかなければならない。

けれど、その難しさも含めて、大樋さんは現場で向き合っている。現場を知らない人間が、マニュアルだけで教育するのとは違う。
自分自身が、パートスタッフからここまで歩いてきた人だからこそ、伝わる言葉があるのだと思う。

金泉と並ぶ、“もう一つの主役”

湯の華廊には、強烈な個性を持つ天然温泉がある。

それでも、施設の中でもっとも人が集まる場所の一つが、炭酸泉だ。

導入してから15年も経つのだが、採用した理由は明確だったという。

有馬系の温度の高い温泉は、とても良い湯だ。
ただし、泉質が濃いため長湯には向かない。

幅広い年代のお客様に、ゆっくり滞在してもらうためには、ぬるめでじっくり入れる炭酸泉が必要だった。

結果として、それは施設に欠かせない存在になった。

現在も炭酸泉には常に人が集まり、順番待ちになることも珍しくない。

かつては、人気の高さから二つ目の炭酸泉まで増設していたそうだ。

しかし、その裏側では大きな課題もあった。

炭酸ガスのランニングコストである。

しかも以前の装置では、お客様が多い時間帯には炭酸濃度が不安定になり、「泡付きが悪い」という声も出やすかった。

逆に、人が少ない時間帯には、必要以上にガスを消費してしまう。

そこで改装時に採用したのが、VEETA社製の炭酸泉装置だった。

利用人数に左右されにくく、安定した濃度を維持できる仕組み。
結果として、炭酸ガス消費量は想像以上に削減された。

「半分くらいかと思っていたら、70%近く減ったんです

そう話された時、私自身も驚いた。

しかも、お客様からのクレームもほぼなくなったという。

炭酸泉は、ただ泡が出れば良いわけではない。
“気持ちよく入れる状態を、安定して維持すること”。

その思いを叶えることができたそうだ。

この街の人たちの日常を守る

湯の華廊には、下町情緒に溢れている。

毎日のように通う人がいる。
この湯に浸かることで、一日の疲れをほどいている人がいる。

そして、その時間を支えているスタッフがいる。

大樋さんが繰り返し語っていたのは、「毎日来てくださるお客様を大切にしたい」ということだった。

特別なイベントではなく、日常を支える場所。

それは、22年間同じ施設に立ち続けてきた人だからこそ、見えている景色なのかもしれない。

渡り廊下から庭園を眺める人。
炭酸泉で静かに目を閉じる人。
露天の金泉で肩まで浸かる人。

その風景の中には、設備だけでは作れない空気がある。そして、その空気はきっと、
「スタッフの味方である」と言い切れる支配人の背中から、生まれているのだと思う。

湯の華廊
兵庫県尼崎市塚口本町4丁目8−12
TEL 06-6423-4426
公式HP https://www.yunokarou.com/

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