ビジネスホテルの競争は「風呂」で決まる時代へ

ビジネスホテルの競争は「風呂」で決まる時代へ― 温浴戦略の変化と、その次の一手としての炭酸泉 ―

― 温浴戦略の変化と、その次の一手としての炭酸泉 ―

「また泊まりたい」と思う理由はどこにあるのか

出張先で、「このホテル、また泊まりたい」と思った経験はないだろうか。
その理由は、必ずしも部屋の広さや立地とは限らない。

むしろ多くの場合、印象に残るのは体験だ。

たとえば、「大浴場が気持ちよかった」という体験である。
かつてビジネスホテルは、「いかに安く泊まれるか」が価値の中心だった。
しかし今、その前提は崩れ始めている。

価格だけでは選ばれない。設備だけでも差がつかない。

「体験」で選ばれる時代が、始まって久しい。

ビジネスホテルは「価格」から「体験」へ

建築費や人件費の上昇により、単純な価格競争は限界に近づいている。
同時に、宿泊客の価値観も変化した。

「安ければいい」ではない。
「疲れが取れるか」「満足できるか」が重視される時代になっている。

この変化に対して、ホテル側が打ち出した答えの一つが、
大浴場の強化である。

一度の投資で多くの利用者に価値を提供できる大浴場は、
コスト効率の高い“満足度装置”として機能する。

そして今、その役割はさらに進化しつつある。

3つのホテルチェーンに見る温浴戦略の違い

この流れを象徴するのが、
スーパーホテルドーミーインアパホテルの3チェーンである。

同じ「大浴場」を持ちながら、その戦略は大きく異なる。

スーパーホテル

快眠を軸にした温浴

スーパーホテルにとって温浴は、単なる付帯設備ではない。
「ぐっすり眠れるホテル」というコンセプトの中で、
温泉は睡眠品質を高める要素として組み込まれている。

ここでは風呂単体で勝つのではなく、
枕・照明・水・空気といった要素と連動し、

“快眠体験の一部”として温浴が機能している。

ドーミーイン

温浴そのものをブランドに

一方、ドーミーインは明確だ。
大浴場そのものがブランドである。

天然温泉、露天風呂、サウナ、水風呂。
近年は特にサウナ機能を強化し、
「サウナのために泊まるホテル」というポジションを確立しつつある。
ここでは、温浴は付加価値ではない。
“選ばれる理由そのもの”になっている。

アパホテル

都市型モデルを支える満足装置

アパホテルの考え方は少し異なる。
客室をあえてコンパクトに設計することで、
高密度・高効率な運営を実現している。

その中で大浴場は、客室の弱点を補完する満足装置として機能する。
短時間でもリフレッシュできる。
それだけで、滞在全体の満足度は大きく変わる。

同じ大浴場でも「役割」が違う

3社に共通しているのは、大浴場の存在ではない。
その“使い方”である。

・快眠のための装置
・ブランドの中核
・満足度の補完

同じ設備でも、戦略によって意味が変わる。

大浴場は「存在」から「質」へ

ここで重要な変化がある。

かつては
「大浴場があるかどうか」が差別化だった。

しかし今は違う。

どのホテルにも大浴場がある時代。

その結果、競争は次の段階に進んだ。
「風呂の質」で選ばれる時代である。

温度設定、導線設計、居心地、滞在時間。
そして、どのような体験が得られるのか。

ここが、差を生むポイントになっている。

その先にある選択肢としての「炭酸泉」

この文脈で注目されるのが、炭酸泉である。
炭酸泉は、単に珍しい設備ではない。

その特徴は明確だ。

・ぬるめでも満足できる
・長時間入れる
・血流が促進され、体が温まる
・プチプチとした泡がまとわりつく感覚

“体感できる変化”がある風呂である。

だからこそ、体験価値として成立しやすい。

すでに始まっている「ホテル先行」の動き

ここで注目すべき現象がある。

炭酸泉ラボの調査によれば、鹿児島県、山口県、秋田県では、
高濃度人工炭酸泉を備えた公衆浴場が存在せず、
導入されているのはホテルの大浴場に限られるという状況が確認されている。

これは示唆的だ。

温浴施設よりも先に、ホテルが炭酸泉を“武器”として使い始めている。

ただし、導入すれば勝てるわけではない

ここで誤解してはいけない。

炭酸泉は万能ではない。

・濃度だけでは差がつかない
・温度設計が重要
・泡の見え方で体感が変わる

“体感設計”によって価値が決まる設備である。

つまり、炭酸泉は「モノ」ではない。
「体験設計」そのもの
だと言える。

ホテルの戦略は、温浴業界にも示唆を与える

この動きは、ホテル業界だけの話ではない。

むしろ、
温浴施設側が学ぶべき変化でもある。

従来は「良い風呂を作る」ことが価値だった。
しかし今は違う。

「選ばれる体験を設計する」ことが価値になる。

ホテルはすでにそれを実践している。
宿泊、睡眠、サウナ、食事。

それらと組み合わせて、風呂の価値を最大化している。

これからの競争は「風呂の質」で決まる

大浴場があること自体は、もはや前提条件になりつつある。

その中で問われるのは、
どのような体験を提供しているかだ。

昨今のサウナブームでは、これが如実に現れている。

サウナ室の温度や湿度、室内の照明や静寂さ、
水風呂の温度、そして「整い」へと導く休憩スペースまでの動線。

それらが計算されているかどうかが、集客に大きく関わる。
炭酸泉を加えた入浴の提案は、その一つの答えになり得る。

最後に

問いを投げかけたい。

あなたの施設の風呂は、
「ただある風呂」だろうか。

それとも――

「また来たい」と思わせる体験になっているだろうか。