鍼灸学校で学んで気づいた、炭酸泉と東洋医学の共通点

─ 鍼灸を学んで見えてきた「整える」という考え方 ─
少し私の話をします。
温浴業界に関わって25年になります。スーパー銭湯や温泉施設の取材、運営支援を通じて、多くの現場を見てきました。そして昨年、「炭酸泉ラボ」を立ち上げ、炭酸泉に関する情報発信を始めました。
一方で、障害者手帳1級の視覚障害者でもあります。
視力の低下をきっかけに、1年前から視覚支援学校へ入学し、現在は鍼灸師とあん摩マッサージ指圧師の国家資格取得を目指しています。そこで初めて本格的に東洋医学を学ぶことになりました。
長年、温浴に携わってきた立場から感じていることがあります。それは、炭酸泉と鍼灸には思いのほか多くの共通点があるということです。
「揉む」は理解できる。でも「鍼」は不思議だった
学校では、あん摩と鍼灸の両方を学んでいます。
あん摩は比較的理解しやすい施術です。筋肉を揉み、ほぐし、血流を改善する。
生理学的にも、解剖学的にも、その仕組みはイメージしやすいものでした。
実際、五十肩になった時には炭酸泉とマッサージに助けられた経験があります。
何より、多くの温浴施設にはリラクゼーション部門が併設されています。温浴とマッサージは昔から身近な関係にありました。
しかし、鍼は違いました。
細い鍼を筋肉に刺す。
1時間かけて揉みほぐしても変化のない筋肉が、それだけで体が変化することがあります。
学び始めた頃は、
「なぜそんなことで変わるのだろう」
とても不思議でした。
もちろん、鍼灸においても生理学的な説明はあります。
筋肉への刺激によって血流が改善し、神経系にも変化が起こることも学校で学びます。
しかし実際には。それだけでは説明しきれない不思議さがあるのです。
鍼を学ぶと、筋肉が語り始める
鍼灸学校で学ぶことの一つが、筋肉に触れることの意味です。
筋肉は単なる肉の塊ではありません。
触れることで、
「硬い」
「張っている」
「冷たい」
「力が抜けている」
といった情報が伝わってきます。
というより、語り出すのです。
経験を積んだ施術者ほど、その情報を正確に聴きとれるようになります。
そして鍼では、その筋肉と会話をしながら、直接刺激を加えるのです。
すると筋肉がピクッと反応したり、緩んだりします。
筋肉だけではありません。東洋医学では、全身にあるツボを介して体のあらゆる部位と会話をする。といったイメージです。
経絡の流れが整い、気血が全身を巡ることで筋肉がほぐれるのです。
それは、まるで「北風と太陽」のような関係です。
西洋医学と東洋医学は何が違うのか
東洋医学を学び始めた当初、戸惑いがありました。
普段学んでいる解剖学や生理学は、「西洋医学的」であって、考え方が大きく異なるからです。
私なりに整理すると、両者の違いはこうなります。
西洋医学は、
「原因を見つけ、それを取り除き、正常な状態へ戻す」
ことを得意としています。
検査を行い、異常値を探し、基準値へ近づける。非常に合理的で、現代医療の中心となる考え方です。
一方、東洋医学が重視するのは、
「調和と平衡を保ち、自然治癒力を高めること」
です。
病気だけを見るのではなく、その人全体を見る。
体質や生活習慣にも目を向けながら、本来備わっている回復力を引き出そうとします。
どちらが正しいという話ではありません。
人間の体を異なる角度から見ているのです。
教官の鍼で実感したこと
入学後、肩の不調に悩まされていました。
見えにくい目で教科書を読み、音を頼りにパソコンのキーボードを叩く。
慣れない環境で勉強を続ける毎日。その症状は五十肩の時によく似ていました。
そんな時、授業の改善モデルとして教官から鍼を受ける機会がありました。
驚いたのは、その変化の速さです。
五十肩の時は、炭酸泉やマッサージを続けながら長い時間をかけて改善していきました。多分、改善には1年以上苦しんでいたように記憶しています。
ところが鍼では、短時間でかなり楽になったのです。
「ここを刺せば、ここがこうなる。それをさせば、このような症状が改善する」
教科書では理解できない「気の流れ」が確かにあるのです。
もちろん魔法ではありません。
しかし、その体験を通して強く感じました。
鍼が治したのではない。
鍼をきっかけに、体が本来持つ回復力を発揮した結果だと。
炭酸泉と鍼灸の共通点
今、炭酸泉と鍼灸には大きな共通点があると感じています。
それは、どちらも自己治癒力を活用していることです。
炭酸泉は薬ではありません。
鍼も薬ではありません。
どちらも体に刺激を与え、その反応として変化を引き出します。
炭酸泉は血流改善をきっかけに体を整える。
鍼はわずかな刺激によって体の反応を促す。
方法は異なります。
しかし、人が本来持つ力を発揮しやすい状態へ導くという点では、とてもよく似ているのです。
「治す」から「付き合う」へ
若い頃は、「治るか、治らないか」を重視していました。
今は、少し考え方が変わりました。
一度死んだ神経は元には戻りません。
「視神経」も然りです。
年齢を重ねれば、体にもさまざまな変化が現れます。
今は、「どう治すか」だけでなく、「どう付き合うか」が大切です。
東洋医学には「養生」という考え方があります。
日々の暮らしを整え、自分の体と上手に付き合うという考え方です。
毎日炭酸泉に浸かることも、その養生の一つでしょう。
これまで炭酸泉を生理学的な視点から学び、その魅力を伝えてきました。その考えは今も変わりません。
ただ、東洋医学を学ぶ中で、自分の体と上手に付き合うための習慣としての炭酸泉は、鍼(はり)と同じ役割を持つものになります。
慢性的な肩こりや腰痛、疲労感を抱えているなら、「治療」でなく「整える」という視点も持ってみてはいかがでしょうか。
毎日炭酸泉に浸かること。
それは東洋医学でいう養生になります。
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