サウナの熱気と変わらぬ感謝。滋賀の「水春」を支える肥後もっこす

草津湯元 水春・杉原店長が大切にする仕事の原点
来てくださることは、当たり前ではない。
「飛び込まなくても、お客様はお店に自分の足で通ってこられる。こんなにありがたいことはないと思いました」
草津湯元 水春の杉原店長は、温浴業界に入った頃の驚きを、そう振り返る。前職は新聞の営業。その経験が、今もお客様を迎える仕事の土台になっている。
滋賀県には、近江商人の商いを象徴する「売り手よし、買い手よし、世間よし」という考え方がある。自らの利益とともに、相手の満足や地域への貢献を大切にする「三方よし」だ。
県民性として語られる堅実さや信用を重んじる気質にも、こうした商人文化が重なる。
県南部の草津市は、東海道と中山道が分岐・合流した宿場町である。現在も京都・大阪への交通の便がよく、住宅都市として発展してきた。商業施設が集まり、立命館大学びわこ・くさつキャンパスを擁する学生の街でもある。
一方、琵琶湖側には田園風景が広がる。交通、商業、大学と住宅地、自然。その四つの顔を持つ街だ。
草津湯元 水春は、地域の商業の核の一つ、イオンモール草津のスポーツ&レジャー棟にある。運営するのは、「水春」ブランドの温浴施設を中心に、飲食やリラクセーションなどを展開するビーバーレコード。買い物や食事と入浴を組み合わせやすく、地域住民の日常に溶け込んでいる。

サウナを目当てに、県外からも人が集まる
日常使いの温浴施設でありながら、サウナを求めて県外から訪れる人も多い。昨今のサウナブームを受け止める、充実した設備と催しがあるからだ。
男女それぞれに、高温サウナ、蒸気サウナ、木製の樽型をしたバレルサウナを備え、男湯には静かに過ごせる瞑想サウナ、女湯には光の演出を楽しむ美光サウナが加わる。
バレルサウナと瞑想サウナでは、利用者自身が熱した石に水をかけるセルフロウリュや。オートロウリュも楽しめる。
水風呂は男湯に三つ、女湯に二つ。なかでも男湯の「冷水土管」は、水温13℃、水深1.6メートル。立った姿勢で体を浸せる深さが特徴で、多くのサウナ―たちが重要視する水風呂も充実度合いはすごい。
高温サウナでは、スタッフによる熱波サービスを実施。別料金の岩盤浴エリアでも、スタッフによるロウリュに加え、時には外部の熱波師を招くイベントが開かれる。
設備だけでなく、訪れる楽しみをつくる取り組みも、サウナ愛好家を引きつけている。
飛び込み営業の10年を経て、熊本から草津へ
杉原店長は、熊本生まれの熊本育ち。温浴業界に入る前は、地元の新聞社で10年間、新規契約を獲得する営業に携わった。法人や個人宅を飛び込みで訪問し、話を聞いてもらうところから始める仕事だった。
「長年やっていると厳しさには慣れてきますが、今思うと、やはり大変でした」
断られることを繰り返しながら、それでも続けた10年間。その後、13年前に熊本の水春へ入社し、お客様が自ら来店してくださる仕事に出会った。
チケットを買い、施設を利用してくださる。提供したサービスを目の前で受け、喜ぶ顔を見ることもできる。ときには、お礼まで言ってもらえる。そのやり取りが、毎日の楽しみになったという。
「商品を買ってくださることも、サービスを受けてくださることも、当たり前ではないんです」
営業時代の苦労を知るからこそ、お客様を迎えられること自体がうれしかったと言う。。その実感が、この仕事への愛着を持を産んだ。
入社から3年ほどが過ぎた頃、関西への転勤を打診された。「冒険してみよう」。決断は早かったと振り返る。こうして10年前、草津へやってきた。
話していると、長く関西で暮らしてきたためか、違和感はない。
草津での暮らしを尋ねれば、「住みやすくて、いいところですよ」と、すぐに答えが返ってきた。すっかりなじまれたようだ。
関西の人の印象についても、答えは明快だった。
「近いんです。とにかく距離感が近い」
と、苦笑する。
どうやら、その違いに慣れるまでには苦労もあったようだ。それでも今は、多くのスタッフとお客様を迎える日々に、やりがいを感じている。
現在、パートやアルバイトを含め、約150人をまとめる立場にある。スタッフに伝えたいのは、自ら足を運んでくださるお客様への感謝だ。仕事に慣れても、そのありがたさを見失わない。入社した頃に感じた喜びを、現場で共有しようとしている。
サウナのにぎわいとともに、常連客を迎える炭酸泉
サウナが遠方からも人を呼び込む一方、地域の常連客に親しまれているのが炭酸泉だ。
「炭酸泉は、主力サービスの一つです。高齢のお客様を中心に、いつも多くの方に
利用していただいています」
草津は学生や若い世帯が暮らす街だが、施設には地元の高齢者も長く通っている。そうした人たちにとって、炭酸泉は来店する楽しみの一つになっている。
人気ゆえの悩みもある。他の浴槽と比べて大きさが限られ、ゆっくり入る人が多いため、混み合いやすい。浴槽の広さは簡単には変えられず、一朝一夕に解決できる問題ではない。
ただ、杉原店長は、その状況を炭酸泉が広く認知され、求められている表れとも受け止めている。混雑は課題だが、そこには、お客様がこの浴槽を選ぶ理由がある。
「サービスの本質を健康と考えると、炭酸泉は、とても重要なものであり続けると思います」
サウナの新しい楽しみを広げながら、日々の健康を願って通う人も迎える。炭酸泉は、その両方を支える施設に欠かせない存在だ。

ブームや設備に頼りきらないサービスを
開業から17年目を迎え、売り上げは好調だという。サウナ人気も追い風となるなか、杉原店長が今後の課題に挙げるのは、女性のお客様を増やすことだ。現在は男性の利用が多い。
女性浴場には高機能のシャワーヘッドを、脱衣所には高機能のヘアドライヤーを導入した。利用者の評判は上々だが、それだけで十分だとは考えていない。
「設備や機械を良いものにするだけでは、本質的なサービスの向上にはなりません。女性のお客様が喜ぶサービスは何なのか、いつも意識しています」
新しい取り組みを試し、お客様の反応を確かめる。話題になる設備を導入したあとも、そこで過ごす時間をどう充実させるかを考え続ける。
サウナを楽しみに遠方から訪れる人も、買い物帰りに立ち寄る人も、炭酸泉にゆっくり浸かる常連客もいる。それぞれの目的に応え、また足を運んでもらえる施設にしたい。
熊本で初めて感じた、お客様を迎える喜び。150人近いスタッフをまとめる今も、杉原店長の仕事は、その実感から始まっている。

全国47都道府県・温浴施設支配人インタビュー
炭酸泉を支えているのは設備だけではなく、そこで働く人たちです。炭酸泉ラボでは全国47都道府県の温浴施設を訪ね、施設を運営する人の思いや地域とのつながりを紹介しています。
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