高濃度人工炭酸泉の実力とは?天然温泉との本当の違い

〜現場で見たリアルな声と利用者の体感〜

人工温泉と天然温泉、どちらが人気なのか。長年スーパー銭湯の現場に立っていましたが、この問い自体がナンセンスだと感じます。なぜなら、それぞれに良さがあり、好みも人それぞれだからです。

しかしながら、おふろ屋として、さまざまな現場で、いろいろな泉質(せんしつ)のお湯や種類の浴槽を見てきた中で、とくに高濃度人工炭酸泉を高く評価する人が多く、確実に人気があったという事実があります。

私の勤務していた会社では、複数のスーパー銭湯を運営し、すべての施設で天然温泉と高濃度人工炭酸泉を併用していました。年間で約120万人のお客様と接する中で、「高濃度人工炭酸泉は体調の良さを実感できる」という声を数多く聞いてきました。

もちろん、あたたかいお湯に浸かれば、どんなお湯であっても気持ちはよいです、身体も楽になります。しかし、その声の本質が、他とは異なるのです。

これは、現場に立っていたからこそ得られたリアルな実感と言えます。

人工炭酸泉のメリットは「天然でない」こと

なぜ多くの人が高濃度人工炭酸泉に効果を感じたのか。それは、そもそも高濃度人工炭酸泉の開発目的が、医療を補完することだったからです。

炭酸ガスが多く溶け込んだお湯に入ると、毛細血管が広がり、血流が改善します。閉塞性動脈硬化症やレイノー病、糖尿病性神経障害、褥瘡(じょくそう)といった病気は、血流の悪化が原因で発症することが多いとされています。重篤な場合には、皮膚が壊死したり、傷が骨まで達することもあります。これによって、命を落とす人もいるのです。

こうした疾患の治療を補助する目的で、高濃度人工炭酸泉は開発されました。日本では、天然の炭酸泉は非常に少なく、温泉法で「炭酸泉」と認められる250ppmを超える温泉は、全体のわずか0.5%と言われています。

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それに対し、高濃度人工炭酸泉は1000ppmを基準とし、さらに高い効果をめざして設計されています。この基準を満たす天然温泉は、国内に数ヶ所しか存在しません。人工だから実現できる温泉なのです。

街なか温泉の課題と人工温泉の強み

高温のお湯では炭酸ガスが抜けやすいという性質があります。人工炭酸泉の装置は、お湯を巡回させながら常に炭酸ガスを供給する仕組みのため、温度や自然環境に左右されずに、高濃度の泉質を安定して維持できます。

ちなみに、温浴施設の浴槽のお湯は通常、ろ過循環により清潔を保っています。このろ過の過程で、お湯の汚れとともに天然温泉に含まれる成分も除去されてしまう傾向にあるのです。

本来であれば、豊富なお湯をかけ流しにするのが理想ですが、それができるのは条件の整った温泉地だけです。多くの施設では法律に則り、ろ過を行って水質管理をしています。

人工炭酸泉では、主成分である炭酸ガスを常に一定に保つことで、いつでも安定した効果を得られるのです。

ぬるめでもしっかり温まる体感温度

炭酸泉のもうひとつの特徴は、ぬるめのお湯でも体感温度が高く、しっかりと温まることです。40度未満でも深部体温が上昇し、体の内側からポカポカします。

実際に、炭酸泉の浴槽は常に混雑しており、順番待ちの様子をよく目にしました。ゆっくりと時間をかけて浸かるお客様が多く、それだけ効果を実感しているのだと感じます。

利用者が語る「実感の声」

ある日、常連の60代の女性がフロントにいた私の手を握り、「お礼が言いたい」とおっしゃいました。

その方は、30代で出産して以来、夜中に必ず1~2回目が覚め、熟睡できず、30年以上も浅い眠りに悩まされていたとのこと。しかし、2日に1度炭酸泉に通うようになってからは、朝までぐっすり眠れるようになり、体調も非常によくなったと感謝されました。

ここまで喜んでもらえるのは、「おふろ屋冥利に尽きる」と感じた瞬間でした。

天然温泉をやめた決断とその結果

ある時期、私は温浴部門の責任者として、天然温泉の提供をやめるという大きな決断を下しました。

高濃度人工炭酸泉は多くのお客様に喜ばれていた一方、光熱費の高騰が重くのしかかっていました。また、当時の温泉は無色無臭の単純温泉で、「天然温泉」という言葉のイメージが先行していた面も否めません。

街なかの温泉では成分がろ過で薄まります、それを抑えるためのかけ流しを行うための費用もかさみます。温めたお湯を捨てる、その下水代もびっくりするくらいの経費がかかっていました。

さらに、温泉には入湯税もかかり、経費削減の観点から天然温泉をやめる選択をしたのです。

正直なところ、お客様が離れてしまうのではないかという不安もありました。しかし、心配はとりこし苦労で、結果的には客数は減らず、むしろ増えました。不安を払拭するために、高濃度人工炭酸泉の効果と価値を正しく伝えたことが功を奏したのです。

プチプチと肌にまとわりつく泡は見た目にも実感があります。何よりも濃度を下げることなく、高濃度に炭酸ガスが保たれたお湯にじっくりと浸かればいやがおうにも体に変化を感じることができたからでしょう。

「天然」にこだわらない、新しい選択肢

天然温泉には、風景と一体になった露天風呂や、自然湧出の源泉といった独特の魅力があります。また、地域文化や歴史と結びついた体験としての価値も大きいでしょう。

そんななか、温泉地でない街なかで、技術の力を頼りに汲み上げる温泉を運用することが本当に正しいことなのだろうか?“天然温泉”を呪文のように唱えればお客様に喜ばれる。盲目的に信じていた考えを改めざるを得ませんでした。

答えはお客様が知っている。商売の基本を教わったように思います。

まとめ:自分の体が感じたことがすべて

天然温泉の風情も魅力ですが、日常的に通えて効果を実感しやすい高濃度人工炭酸泉は、現代のライフスタイルに合った新しい選択肢です。

人工か天然かというより、「自分の体がどう感じたか」を大切にして、あなたに合った“湯のチカラ”を見つけてください。
日々のリズムが整い、いつの間にか心まで軽くなっている――
そんな小さな変化の積み重ねが、きっと明日の元気をつくってくれるはずです。

「ぐっすり眠れるようになった」「体の芯から温まる」といったリアルな声が、その価値を証明しています。

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