「水春なのに」と言わせない。丸山総支配人が松井山手で育てる、街とつながる温浴施設

「水春で自分を試してみたい」

丸山さんからそう相談を受けた日のことを、今も覚えている。私たちは以前、同じ会社のスーパー銭湯で働いていた。ホテルマンから温浴業界への転職を考えていた丸山さんを採用したのは、当時スタッフ募集を担当していた私だった。

その頃、私たちにとって「水春」は近隣の競合であり、お手本でもあった。飲食やリラクゼーションを自ら手がけ、岩盤浴にも力を入れる。調査のために訪れるたび、「次は何をしてくるのだろう」と気になった。お客様から「水春だったら……」と比べられたくなくて、私たちも自分たちの施設にできることを考え続けていた。

その水春で働きたいと、丸山さんは言った。そして今、京都府京田辺市にある「SPA&HOTEL水春 松井山手」の総支配人を務めている。

茶どころの北部に広がる、新しい街

京田辺市は、京都・大阪・奈良の中間に位置する。宇治茶の産地の一つであり、玉露の名産地として知られる街だ。一休禅師ゆかりの一休寺もある。

その北部に広がる松井山手は、茶畑とは違う表情を持つ。JR学研都市線の松井山手駅を中心に住宅地が整備され、京都・大阪方面へ通う人々の暮らしの場として発展した。第二京阪道路などの交通網が整うにつれ、周辺には物流施設や企業も進出している。

水春は松井山手駅から徒歩圏内にありながら、370台分の駐車場を備える。駅前からの直通バスでは、JR京都駅まで約25分。地元で暮らす人にも、周辺で働く人にも、車で訪れる人にも開かれた立地だ。

ここにはお風呂だけでなく、86室の客室、二つのレストラン、岩盤浴、リクライナールーム、フィットネスクラブがある。入浴は深夜2時まで。追加料金を払えばリクライナーで翌朝まで過ごせ、朝6時から再び入浴もできる。

宿泊客について尋ねると、京都への旅行者ばかりではないという。平日は周辺企業に関わるビジネス利用、週末は食事やお酒をゆっくり楽しむために泊まる利用客も多い。海外からの集客を積極的に狙うより、まずは地域の憩いの場でありたいという考えがある。

「僕は京田辺市の観光協会の理事もしているので、もう少し国内旅行のお客様の集客に力を入れなきゃならないんですけどね」

丸山さんは笑う。これからは、大型温浴施設の少ない京都市内方面からも、もっと足を運んでもらいたいと話した。

一つの施設を動かす、それぞれの責任

水春を運営するビーバーレコードは、直営の「水春」9施設を中心に温浴事業を行う会社だ。温浴に加え、飲食、ホテル、フィットネス、リラクゼーションなども手がける。松井山手でも、これらのサービスをほぼ自社で運営している。

丸山さんに会社の強みを尋ねると、二つの答えが返ってきた。各部門の責任と権限が明確なこと。そして、お客様の喜ぶ顔を大切にする考えが浸透していることだ。

施設内の各部門には責任者がいて、売上と経費の両方を見ながら運営する。丸山さんは温浴部門を担うとともに、それぞれの部門が一つの施設として、お客様にどう応えるかを考える立場にいる。

数字は大切だ。しかし、経費を抑えるためにサービスの質を落としては、施設を選んでもらう理由が薄れてしまう。現場でお客様のために必要だと考えたことを実行できる裁量も、任されているという。

「トップである社長も、よく施設を訪問されるんですよ。常に、お客様の満足を考えておられる」

同じ思いを持って仕事ができることが、丸山さんの安心とやりがいにつながっている。

お風呂を目的に、運動を続ける人もいる

館内の「B-fitスポーツクラブ松井山手」では、マシンでの運動やスタジオレッスンなどを提供している。会員はコースごとの条件に応じて、水春のお風呂も利用できる。ホテル宿泊者には、マシンジムの利用特典がある。

丸山さんによると、運動を目的に通う人はもちろん、お風呂を楽しみに入会する常連客も増えているという。汗を流した後に湯に入る。あるいは、お風呂があるから運動も続けられる。温浴とフィットネスを同じ建物に置くことで、利用の仕方も広がっている。

岩盤房で伝える、炭酸泉の入り方

「炭酸泉は本当に大切なアイテムです」

『温泉利用指導者』の資格を持つ彼は、医師の指示に基づいた温泉療養を受ける者に対する入浴指導などを行うことができる。

温泉と健康の関係も学んできたプロなのだ。

施設では天然温泉と高濃度人工炭酸泉の両方を提供しているが、地域の人に炭酸泉を知ってもらい、実際に体験してほしいという思いがある。

その思いを伝える場所は、浴槽の前だけではない。

「実は、つい先ほども岩盤浴で熱波師としてパフォーマンスを行いながら、炭酸泉の入り方についてレクチャーをしてきたところです」

丸山さん自身が、高温の岩盤房で大きな団扇を振る。熱波を受けるお客様に声をかけながら、炭酸泉の話もする。

「パフォーマンス中は、みなさんこちらに注目されますからね。話のネタにはちょうどいいんですよ」

炭酸泉を難しく説明する前に、まず会話のきっかけをつくる。お客様との距離の取り方に、丸山さんらしさが表れている。

この施設には、炭酸の水風呂もある。丸山さんは、サウナの後に入ると「まるでサイダーの中に入っているよう」だと笑った。こちらは健康について語るというより、お客様に楽しんでもらうための仕掛けだという。

参考資料・温泉利用指導者

街に欠かせない場所になるために

丸山さんは開業時から、この施設を任されてきた。その後にはコロナ禍もあった。施設の中だけに目を向けるのではなく、京田辺市観光協会の理事や地域の経済倶楽部の会員として、街との関わりも深めている。

水春だけがにぎわえばいいのではない。地域に溶け込み、そこで暮らす人にとって欠かせない場所になることが、結果として施設の力になる。そう考えている。

最後に、仕事で大切にしていることを聞いた。

「お客様の期待を裏切り、『水春なのに……』という言葉をもらわないことです」

かつて私は、「水春だったら……」と比べられないように働いていた。同じ職場にいた丸山さんは今、その水春を預かり、期待を裏切らないことを自分の仕事にしている。

あの日の「水春で自分を試してみたい」という言葉を思い出す。松井山手で丸山さんが向き合っているのは、一つの施設の運営だけではない。お客様が抱く「水春」への期待と、この街で重ねていく毎日なのだ。

全国47都道府県・温浴施設支配人インタビュー

炭酸泉を支えているのは設備だけではなく、そこで働く人たちです。炭酸泉ラボでは全国47都道府県の温浴施設を訪ね、施設を運営する人の思いや地域とのつながりを紹介しています。

▶ 全国47都道府県・温浴施設支配人インタビュー一覧はこちら

炭酸泉ラボ

日本全国のおふろを支える湯守人に会いに行く | 炭酸泉ラボ——47都道府県支配人インタビューを始めます—— 温浴施設の魅力は、浴槽の種類や設備だけで決まるものではありません。 どのようなお客様に来てほしいのか。そこで、どのよう…

…