介護施設の入浴は、ここまで変えられる

― 高濃度人工炭酸泉が「安心」と「くつろぎ」を両立させる理由 ―

介護施設の入浴の質を高める現実的な選択肢
介護施設における入浴の質を本質的に高める手段として、私は高濃度人工炭酸泉の導入が非常に有効だと考えています。
それは、利用者の安全を守りながら、心からくつろげる入浴体験を実現し、家族やケアマネジャーの安心感を高め、結果として施設そのものの価値を引き上げる選択肢だからです。
私が介護入浴に違和感を覚えた理由
私は温浴施設に17年間従事し、その後は温浴事業のコンサルタントとして、さまざまな形態の「お風呂」に関わりました。「ホッ」と息を吐くお客様の顔を作ることに、使命感を抱いていたのです。
介護の現場にも実際に立ち、介助が必要なお年寄りの入浴介助を数多く経験しました。
そこで強く感じたのは、自分が温浴の現場で大切にしてきた使命感を、介護現場では十分に果たせていないのではないかというジレンマでした。
勤務していた施設では、完全個浴が採用され、決まった担当者がマンツーマンで介助にあたる体制が整っていました。体の不自由なかたでも負担が少ないよう、設備の整った浴槽が導入され、「気持ちのよい入浴」を売りにしていた施設でした。
しかし、実際に入浴されているかたの表情を見ると、心からくつろいでいると感じられる瞬間に出会うことは、ほとんどなかったのです。清潔で、安全で、配慮も行き届いている。
それでもなお、「お風呂に浸かってホッとする」という、本来あるはずの表情が見られない。
そこに、介護入浴が抱える構造的な課題があると感じていました。
介護入浴が「安心の時間」になりにくい理由
介護現場で、入居者が入浴に対して抱く感情は実にさまざまです。
「お風呂」と聞いただけで表情が曇るかたもいれば、なかには強く拒否反応を示すかたもいます。
その理由は、身体状況や認知機能、過去の経験など人それぞれ。単純に一つの原因に集約できるものではありません。
ただ一つ確かなのは、入浴に対して何らかの不安を抱えているかたが多いという事実です。
本来、入浴は多くの人にとって楽しみな時間。銭湯や温泉では自然と安堵の表情が浮かびます。
しかし介護施設では、その安堵感が生まれにくいのが現実です。安全を最優先するあまり、湯温はぬるめに設定され、心臓への負担を考慮して入浴時間は短くなります。さらに、常に見守られる環境の中での入浴。
給湯器で温められたお湯は「なめらかさ」がなく、体が芯から温まる前に入浴が終わってしまうことも少なくありません。
高濃度人工炭酸泉を導入した施設で見た変化
こうした状況を変える手段として、注目したのが「高濃度人工炭酸泉」です。
ある介護施設を見学した際、二つある浴室の双方に高濃度人工炭酸泉の機能が備えられており、スイッチ一つで約1000ppmの炭酸泉が注がれる仕組みになっていました。
湯温は38度のぬるめに固定されていました。入浴前に浴室暖房で室内をしっかり温め、落ち着いた環境を整えたうえで入居者を迎え入れる。ここまでは、我々も同じです。
しかし、ぬるめのお湯であっても体はしっかりと温まり、心臓への負担も少なく、入浴に対する不安が和らいでいるように感じました。
炭酸の泡が肌に触れるプチプチとした感覚は視覚的にも楽しく、入居者の間では「サイダーのお風呂」として自然に受け入れられているそうです。
また、弱酸性のお湯は乾燥しがちな高齢者の肌にもやさしく、入浴後の違和感を訴える声も減っていったと聞きました。

介護入浴を「作業」から「安心の時間」へ
要介護者の不安の軽減
要介護者にとって、介護施設の入浴にはどうしても避けられない心理的なハードルがあります。
人前で裸になることへの抵抗感。何をされるのかわからない不安、そして体調への心配。
これらは、入居者の状態や理解度にかかわらず、誰にとっても自然な感情です。
介護士の安の軽減
同時に、現場で介助にあたる介護士は、湯温管理への不安や心臓への負担による急な体調変化への緊張があります。さらには入浴を強く拒むかたへの対応に、常に神経を使い続けています。
施設運営者にとっても、「安全を最優先しながら入居者の満足度をどう高めるか」「スタッフの負担をどう軽減するか」という課題は避けて通れません。
高濃度人工炭酸泉は、こうした三者それぞれの立場にある悩みを、一つの仕組みで同時に和らげる入浴環境です。
ぬるめの温度でも体の芯からしっかり温まる。心臓への負担を抑えた温度設定を固定しやすい。そのため、半身浴や、多少の長湯であっても苦しさを感じにくくなります。
これなら、熱いお湯が好きだった人であっても満足感のある入浴体験につながり、入居者のQOL向上が期待できます。
また、「サイダーのお風呂」という親しみやすいイメージは、入居者の恐怖心を和らげ、介護士にとっては声をかけやすいきっかけとなる。施設にとっては明確な差別化の軸として機能するのです。
価値ある投資
さきに触れましたが、見学した施設では自動で二つの浴槽に高濃度人工炭酸泉を供給できる装置が導入され、月額約3万円の固定費で運用されていました。
約3年で償却できる水準だそうです。
「お風呂が良い施設」という評価が宣伝効果として広がることを考えれば、費用対効果の面でも十分に現実的な選択肢だと感じています。
やっぱり入浴は気持ち良い
不安を抱える人が、少しでも安心し、「今日は苦しくなかった」「思ったより気持ちよかった」と感じられる時間を積み重ねていくこと。
それこそが、介護入浴に求められている本質ではないでしょうか。
入浴の質が変わると、入居者の表情が変わり、介助の空気が変わり、施設全体の印象が変わっていきます。
高濃度人工炭酸泉は、介護入浴を「我慢の時間」や「作業」から、人としての尊厳と安心を支える時間へと引き戻す技術です。
介護施設の入浴は、まだ進化できます。
私は、高濃度人工炭酸泉がその次の一歩を支える、現実的で意味のある選択肢だと考えています。