「ppm」で読み解く炭酸の世界

「ppm」で読み解く炭酸の世界─味・嗅覚・肌感覚でわかる“ppm”の不思議と温浴施設で感じた実例─

味・嗅覚・肌感覚でわかる“ppm”の不思議と、温浴施設で感じた実例

炭酸泉や炭酸水の炭酸濃度は、「ppm(ピーピーエム)」という単位で表せます。
一度は耳にしたことがある言葉かもしれませんが、この数値を知ると、日常の味覚や嗅覚、さらにはお風呂で感じる肌感覚まで、意外なほど鮮明に理解できるようになります。

私はこれまで20年以上、温浴施設の運営に関わってきました。炭酸泉の濃度管理、残留塩素の調整、さらにお風呂上がりの美味しい生ビール。お客様の反応は、どれも「ppm」と深く関わっていたと感じています。

この記事では、炭酸の濃度を表すppmがどのように体感へ影響するのか。温浴施設の現場での体験を織り交ぜながら、わかりやすく解説していきましょう。

ppmとは何か?──100万分の1の世界を扱う単位

ppmとは、“parts per million(100万分の1)”の略です。見た目では違いがわからないほどの微量な物質の濃度を示すときに使われます。

わかりやすく例えるなら、米粒100万粒の中にある、たった一粒が1ppmです。100万粒はおよそ20キロになります。人が味やにおいとして感じている変化は、この一粒ほどの差によって生まれています。

水で言えば、1ppmとは水1リットルに1mgの物質が溶けている状態です。塩素、二酸化炭素(炭酸)、鉄分、においの原因物質など、多くの成分がこの単位で管理されています。

ppmでわかる“嗅覚”の違い──残留塩素は1ppmで景色が変わる

公衆浴場では、衛生管理のために残留塩素の濃度が法律に基づいて厳しく管理されています。浴槽のお湯は、常に0.2〜1.0ppmの範囲に保つことが義務づけられています。

ところが、ppmの違いによる「におい」の変化は非常に繊細です。0.2ppmと1.0ppmでは、浴室の空気の印象が明らかに異なります。嗅覚に違いはありますが、0.2ppmではほぼ無臭に感じられますが、1.0ppmを超えると塩素のにおいが気になり始めます。

塩素臭はお客様の評価に直結するため、強すぎても弱すぎても問題です。減らしすぎれば不衛生になり、逆に増やしすぎると塩素のにおいが不快になります。たった100万分の1グラム単位の違いで印象が変わるのですから、不思議に感じますよね。

毎日塩素管理を続けていると、浴室に入らなくても館内に漂うにおいで塩素濃度や湯の状態を推測できるようになりました。何十トンものお湯に含まれる数グラムの塩素を、においで感じ取れるようになる。この感覚こそ、ppmの世界の奥深さだと言えます。

※公衆浴場の塩素管理基準は、保健所の管轄や社会情勢によって変更されます。文中の基準は現在および全国共通のものではありません。
※浴室の塩素のにおいは、残留塩素濃度だけでなく、お湯の質やさまざまな化学的条件によっても変化します。

ppmでわかる“味覚”の違い──炭酸飲料の刺激は濃度と温度で変化する

炭酸飲料に含まれる二酸化炭素も、ppmで表すことができます。一般的な市販の炭酸水は約3,000ppm、コーラでは6,000ppm〜7,000ppmです。このppmの差は、口に含んだ瞬間の刺激ではっきりとわかります。

私が温浴施設で提供していた生ビールの炭酸量は、冷却状態によって大きく左右され、理想的な状態では4,000〜5,000ppmを維持していました。ところが夏場にお客様が一気に増えると、ビールの冷却が追いつかなくなり、サーバー内の温度が上昇します。温度が高くなると炭酸ガスは液体に溶けていられなくなり、結果としてppmが低下してしまいます。

その状態では、どうしても気の抜けたビールしか提供できず、お客様から随分と叱られた記憶があります。このときの炭酸濃度は、おそらく3,000ppmを下回っていたでしょう。ぬるいビールの味わいはまったく別物になり、炭酸の溶解度がいかに繊細な世界かを身をもって感じた出来事でした。

炭酸ガスは、温度が低いほど液体に溶けやすく、温度が高くなるほど溶けにくくなります。
たとえば10℃のビールでは炭酸が安定して溶け込み、シャープな刺激が生まれますが、20℃近くまで温度が上がると同じ量の炭酸を保てず、ガスは泡となって逃げてしまいます。

だからこそ、キンキンに冷えたビールは炭酸濃度が高く、喉を刺すような爽快感が生まれます。冷えたグラスに注いだ瞬間に立ちのぼる細かな泡と、シュワッとした勢い。そのすべてが、温度とppmが生み出す体感の差なのです。

ppmで変わる“肌感覚”──炭酸泉1,000ppmが体を変える

炭酸泉では、1,000ppmが高濃度炭酸泉の基準とされています。この数値は、水1リットルあたり1gの二酸化炭素が溶け込んでいる状態を意味します。

たとえば、4トン(4,000リットル)の浴槽を1,000ppmにするには、完全溶解で4kgの炭酸ガスが必要です。しかし、営業中は炭酸ガスが常に揮発するため、濃度を維持するには継続的な補給が欠かせません。

仮に1時間あたり25%が抜けるとすると、12時間の運営で補給が必要な炭酸ガスは約12kg。初期投入分を含めると、1日の運営で合計約16kgもの炭酸ガスが使われている計算になります。

これほど大量の炭酸が溶け込んでいるからこそ、高濃度炭酸泉は独特の体感を生み出します。炭酸は皮膚から吸収されやすく、毛細血管を拡張させます。血流が増え、温められた血液が全身を巡ることで、体の深部からじんわりと温まる感覚が得られます。

この温まり方は、単にお湯の温度で皮膚を温める一般的な入浴とは明らかに異なります。「ぬるめなのに湯冷めしにくい」と感じる人が多いのは、この血流変化によるものです。

天然温泉では1,000ppmもの炭酸を含む泉質はほとんど存在しません。そのため、医療補助を目的として人工的に高濃度炭酸泉をつくる装置が開発されました。
市販の入浴剤が数百ppm程度であることを考えると、その差は数字以上に大きく、体感としても明確に現れます。

日常にも広がるppmの感覚──食塩・空気・飲み物

ppmは、お風呂以外にも私たちの生活に広く存在しています。

食塩水

・スポーツドリンク:1,000ppm
・味噌汁:5,000〜10,000ppm
数千ppmの差で「しょっぱい」と感じる度合いは大きく変わります。塩分の摂りすぎには注意が必要ですね。

空気中のCO₂

・屋外:420ppm
・締め切った会議室:1,000ppm前後
数百ppm上昇するだけで眠気や集中力低下が起こります。冬場の換気が重要な理由がよくわかります。

炭酸飲料

・炭酸水:3,000〜5,000ppm
・ビール:4,000〜6,000ppm
・コーラ:6,000〜7,000pp
ppmの違いで刺激が変わり、温度によっても濃度が変化します。コーラの強い刺激に納得できる数字です。(ppm換算した場合の理論値)

ppmは、人の感覚に深く結びついている単位だと言えるでしょう。

まとめ──ppmを知ると世界が“感覚で読める”

炭酸泉の温かさ、生ビールの刺激、浴室のにおい。これらはすべて、ppmという共通の物差しで説明できます。

  • 0.2〜1ppm:嗅覚でわかる領域(塩素)
  • 100〜1,200ppm:肌で感じる領域(炭酸泉)
  • 3,000〜7,000ppm:舌でわかる領域(飲料)

20年以上温浴施設を運営してきた経験から、ppmは単なる数字ではなく、利用者の体感をつくる設計図のような存在だと実感しています。

ppmを知ると、日常は一気におもしろくなります。入浴の心地よさも、飲み物の味の違いも、「なぜそう感じるのか」が自然に腑に落ちてくるからです。炭酸泉に浸かるとき、ビールを飲むとき、水道のにおいが気になったとき。
ふと「これは何ppmだろう」と考えてみてください。その瞬間、いつもの世界が少し違って見えてくるはずです。