知られざる「みどりのガスボンベ」の正体

温泉施設で人気の「高濃度炭酸泉」。あの心地よいしゅわしゅわの正体は「炭酸ガス」です。
施設の裏側では、たいてい「液化炭酸ガス」が詰まった、みどり色のガスボンベがずらりと並んでいます。このみどり色のガスボンベは、居酒屋などでもよく見かけますよね。生ビールを作る際には欠かせません。
今回は、身近でありながら意外と知られていない「みどり色のガスボンベ」の世界を、少し深掘りしてみましょう。

みどり色のガスボンベは炭酸ガス専用
みどり色のガスボンベは炭酸ガス専用です。国内流通の業務用では、みどり色で統一されています」
ガスボンベは、ガスの名称や、危険性、取り扱いの明示を「高圧ガス保安法」という法律で定められています。その上で、JIS規格によりボンベの色はガスの種別によって統一されているのです。
【色の意味】(JIS B8241)
・みどり色…二酸化炭素(液化二酸化炭素)
・灰色…窒素
・黒色…酸素
・褐色…アセチレン
・赤色…水素
このように、社会ではさまざまなガスがボンベによって供給されています。取り違いが起こらないよう、ガスの種類ごとに色分けすることが決められているのです。
みどり色のガスボンベの特徴
炭酸ボンベはとにかく重い
みどり色のボンベには液化した二酸化炭素が充填されています。常温で約60気圧という高圧状態で詰められているため、基本的には鋼鉄製の容器が必要となり、頑丈でとても重いのが特徴です。
※内容量10キロ以下の場合アルミ製のボンベも存在します
以前勤めていた施設では、一本のボンベ本体だけで50kg以上、ガスを含めると80kg以上ありました。そのボンベが30本ずらりと並んでいたのです。
毎週、空になった50kgの空ボンベを、炭酸入りの80kgボンベと交換していましたが、作業をする専門業者にとって、これはなかなか骨の折れる仕事だと感じていました。
ガスだけれど燃えません
炭酸ガスは「不燃性ガス」で、火をつけても燃えません。むしろ火を消す性質を持っているので、消火器に使われる理由です。
ただし、不燃性だからといって安全とは言い切れません。二酸化炭素中毒の恐れがあるからです。人体にとって体内の二酸化炭素濃度が異常に高まることで、頭痛、めまい、吐き気、呼吸困難、意識障害などを引き起こします。最悪の場合、呼吸停止や死亡に至ることもあり、非常に危険です。
炭酸ガス(二酸化炭素)は比重が重い
炭酸ガスは酸素より比重が重く、下に溜まりやすいのが特徴。色やにおいがないため、密室や換気の悪い空間では、足元から溜まっていても気づきにくいことがあります。
高圧放出による凍傷や機器損傷
炭酸ガスボンベは、高温時に内部圧力が上昇すると安全弁が作動し、液体ガスが噴出します。その際、気化熱によってボンベが急激に冷え、表面が凍ったように冷たくなります。いわゆるドライアイス状態で、このときの温度は条件によってマイナス30〜60度となり、うかつに触れると凍傷を負うおそれもあるのです。
炭酸ガスの生産地
ところで、みどり色のガスボンベの中身である二酸化炭素は、いったいどこから来ているのでしょうか。
私たちの呼吸でも吐き出されるため、空気中に無尽蔵にあるように思えますが、業務用ガスは精製所で生成されています。
副産物からの回収
日本では、化学工場で副産物として発生する二酸化炭素を回収・精製し、再利用するのが一般的です。
アンモニア製造や発酵工程などが主な発生源です。フィルターや冷却装置で分離・液化し、高純度の状態でボンベに充填されます。
天然由来のガス田
海外では、アメリカやノルウェーなどに天然の二酸化炭素ガス田があり、地中から直接採取されています。これらがボンベ詰めされ輸入されますが、一部は中国や韓国などからの輸入にも依存しており、世界情勢の影響を受けやすい側面があるのです。
さまざまな業界で使われるみどりのボンベ

国内外で回収・生産された炭酸ガスは、国内ではみどり色のガスボンベに詰められ、さまざまな分野で活用されています。高濃度人工炭酸泉を提供する温浴業界も、そのひとつです。ここでは、ほかの業界での代表的な使われ方を見てみましょう。
飲食業界
ビールや炭酸飲料を支えるガス
居酒屋やレストランで提供される生ビールや炭酸水には炭酸ガスはおなじみですね。飲食用途で使われる炭酸ガスは「食品添加物」として認められ、直接体内に入っても安全性の高い炭酸ガスが使用されます。
食品流通・加工
鮮度を保つためのガス
食品加工の現場では、パック内の二酸化炭素を補填した、「MAP包装(ガス置換包装)」が利用されています。酸化や腐敗を抑え、食品の鮮度や品質を保つ役割を果たしているのです。
美容業界
血行促進を目的とした施術に活用
美容分野では、小型のみどり色のガスボンベが使われ、炭酸ヘッドスパや炭酸フェイシャル、炭酸浴などに利用されています。炭酸泉による血行促進効果を活かし、頭皮ケアや肌のコンディション改善、リラクゼーションを目的とした施術が行われています。
医療分野
安全性の高い医療用ガス
炭酸ガスは腹腔鏡手術で体内に注入され、作業スペースを確保するために使用されます。体内への影響が少なく、吸収が早いことから、医療現場で広く採用されています。医療用炭酸ガスは高純度が求められ、厳格な管理体制のもとで取り扱われています。(薬機法に基づく日本薬局方(JP規格)に準拠)
農業分野
光合成を促進するためのCO₂供給
ビニールハウスや植物工場では、二酸化炭素不足を補うために炭酸ガスが供給されている。いわゆる「CO₂施用」により光合成効率を高め、作物の成長促進や収量向上につなげているのです。
工業・製造分野
溶接や洗浄で活躍するガス
工業分野では、CO₂アーク溶接のシールドガスとして使用され、安定した溶接品質を支えています。また、ドライアイス洗浄では固体化した二酸化炭素を噴射し、機械の油汚れなどを効率よく除去します。
消防分野
燃えない性質を活かした消火用途
炭酸ガスは不燃性で酸素を遮断する性質があるため、消火器にも利用されている。残留物が出にくいことから、電気設備や精密機器、美術品の保護に適した消火方法として重宝されています。
まとめ
普段、私たちが気軽に楽しんでいる炭酸泉。その裏側には、みどり色の高圧ガスボンベと、それを支えるインフラがあります。
炭酸泉、ビール、医療、農業、工業。分野は違っても、同じ二酸化炭素がそれぞれの現場で重要な役割を果たしているのは、とても興味深いことです。次に温泉に入るときは、そんな舞台裏にも少し思いを巡らせてみてください。