高濃度人工炭酸泉の導入で絶好調の銭湯を紹介

高濃度人工炭酸泉の導入で絶好調の銭湯を紹介 濃度人工炭酸泉は、銭湯経営を支える「中核設備」

高濃度人工炭酸泉は、これからの銭湯経営を支える「中核設備」になり得るだろう

高濃度人工炭酸泉の導入は、単なる人気設備の追加ではない。
それは、地域密着型の温浴施設が、健康・継続利用・世代交代という課題を乗り越えるための、有効な経営戦略の一つだからだ。

今回は、コロナ直後に高濃度人工炭酸泉の導入も含めた大規模な投資を行い、業績を飛躍的に伸ばし続けている銭湯、白玉温泉の北出社長に話を伺った。

大阪・京橋にある老舗銭湯 ユートピア白玉温泉 は、大型リニューアルを機に高濃度人工炭酸泉を導入し、結果として入浴者数・滞在時間・客単価のいずれにも明確な変化を生み出した施設だ。

その歩みは、これからの銭湯の未来を考える上で、多くの示唆を与えてくれる。

「続けられる健康価値」を持つ風呂が 銭湯の役割を変えた

白玉温泉は、大正時代から続く歴史ある銭湯である。
1963年に北出社長の父が、現在の施設を譲り受けた。1989年には当時としては思い切った大規模建て替え実施。その後、経営を引き継いだ北出社長の運営は、近代的な設備と、早朝から深夜まで年中無休という営業スタイルによって、幅広い層に支持されてきたのである。

しかし、その建て替えから30年以上が経過し、施設・設備の老朽化は避けられない課題となっていた。

多くの銭湯が後継者不足や競争激化により廃業していくなか、リニューアルの経営判断は決して容易なものではなかったという。

”私の代で終わらせるのであれば、現状維持という選択もありました。ただ、息子たちが力を合わせて継ぐ決意をしてくれた。だからこそ、中途半端な改修ではなく、次の20年を見据えた投資をしようと覚悟しました”

その決断の根底にあったのが、銭湯は“レジャー”ではなく、“健康を維持する場所”でなければ生き残れないという考えだった。

高齢化と固定化が進む常連客構造への明確な回答

リニューアル前、同店もまた多くの銭湯が抱える課題に直面していた。
最盛期には多くの利用があったものの、長期的には緩やかな減少傾向にあり、特にコロナ禍を境に落ち込みが加速。

客層は地元の常連客が中心で、年齢構成も年々高くなっていた。かつて多かったファミリー層は、その子どもの独立とともに自然減していった。

”最盛期に比べると6割くらいの集客になっていたかなあ。。高齢の常連さんだけに支えられる形では、いずれジリ貧になる。新たな来店動機を作り、今まで銭湯に関心のない人にアプローチしなければならない。
その一方で、健康のために通い続けられる理由を用意できれば、銭湯はまだ役割を果たせるとも思っていました”

そこで、今回のリニューアルでは明確に三つの柱が設定された。

サウナの本格強化(有料化)
コワーキングスペースの新設
・そして、高濃度人工炭酸泉の導入

このうち、既存客・新規客の双方に最も強く訴求する“核”となったのが炭酸泉だった。

なぜ炭酸泉だったのか──確信に近い判断

炭酸泉導入の直接のきっかけは、他地域の同業者が高濃度人工炭酸泉によって集客に成功したという実例だった。

すでにスーパー銭湯では炭酸泉が一般化しつつあるなか、「銭湯でも本物を提供できれば、十分に勝負できる。という確信があったという。
”常連さんは健康志向の高い年代が中心です。炭酸泉は、ぬるめでも満足感があり、体への負担も少ない。健康という文脈で、これほど分かりやすいお風呂はないと思いました”

かつてファミリー向けに設けていた浅い浴槽を転用し、炭酸泉に置き換える判断も合理的だった。

導入後に起きた、数字と現場の変化

炭酸泉導入後、施設全体の利用状況は明らかに変化した。
入浴者数は、リニューアル前と比較して倍増以上の伸びを示している。
注目すべきは、条例で決まっている入浴料金が2度にわたって値上げしているにも関わらずである。しかも、有料化したサウナも絶好調だという。

”今回のリニューアルでは、今まで来店のなかったサウナ目的のお客様、つまり新規のお客様がかなり増えました。しかし、新規のお客様だけで、現在の伸び率は説明できません。明らかに「通い続ける人」が増えています”

また、滞在時間の伸びは誰の目にも明らかだった。
炭酸泉の利用者は1回あたり15分前後、長い人はそれ以上で、これを複数回繰り返す。結果として、浴槽の前は常に順番待ちができる状態となっている。

”順番まちのクレームもありますがね、特性上どうしようもない。だって、ゆっくり浸かりましょうって推奨しているわけですからね、正直、うれしい悲鳴ですね”

現場の光景も一変した。
ここ数十年、誰も利用していなかった子供プールと銘打った浴槽に、炭酸泉に浸かる大人たちは目を閉じ、穏やかな表情で長く湯に身を委ねている。いつもそんな状況が続くなんて、その様子を見て、導入の判断が間違っていなかったと実感するという。

「数字では測れない価値」が現場に現れた

印象的なエピソードもある。

”先日、80代の常連女性から、「血圧計を置いてほしい」という要望があったのだ。「炭酸泉に入るようになって調子が良い。それを数値としても自分で確認したい、という話でね。もちろん、効果を断定するものではない。しかし、利用者自身が体感し、生活の一部として捉え始めていることは間違いないのだろうね”

炭酸泉は、地域と銭湯を未来につなぐ装置である

北出社長は、炭酸泉の価値を「地域に根差した施設が果たすべき使命」と表現する。

”銭湯は、その地域に住む人の健康に役立つ存在であるべきです。高齢化が進む社会の中で、その象徴的な存在として炭酸泉がもっと認知されてほしい”

そのために、何が大事ですか?という問いに対しては

単に設備を入れるというだけではダメで、ちゃんと(炭酸泉の)仕組みや効果を知って発信すること。それも銭湯としてできることをトータルで提案することでしょう。例えば、当店ではサウナの使い方、交互浴なども本格的にこだわってます”

商いをするものとしての信の大切さを感じる言葉であり、まさにここが原点であろう。

導入にあたって重要視したポイント

一方で、ランニングコストへの目配りも欠かせない。

”炭酸装置を導入するには、結構な費用がかかりますよ。装置代に加えて、配管や、ポンプ、浴槽の目地などを耐酸仕様に変更しなければならない。でもね、一番心配だったのはランニングコストです。”

同店では、溶存炭酸ガス量に応じて供給を調整する省エネ型の装置を採用。初期費用よりも、長期的な持続性を重視した判断だった。
事実、この3年間で、仕入れる炭酸ガスの単価は1.5倍になった、重油やガスも年々どんどん上がっている。

”結果的にはこの選択は正しかったと思っています”

白玉温泉の成功を見て、改装に踏み切る決意をした同業者も多くいるという。

”やるなら、早く決断したほうがいいよね、建築物資も高騰しているし、借入の金利も上がっている。どんどんハードルは上がってきているからね”

大阪府公衆浴場組合の理事として、相談を受けることも多いそうだ。そして改装を考える仲間には炭酸泉導入を勧めているという。

高濃度人工炭酸泉は、集客装置であると同時に、銭湯の存在意義そのものを更新する設備なのかもしれない。

白玉温泉の事例は、その可能性を静かに、しかし確かに示している。

取材協力 ユートピア白玉温泉
公式HP https://utopia-shiratama.com/