医学博士が語る、解剖学と炭酸泉の意外な共通点

炭酸水は誰にとっても身近な存在です。炭酸飲料として日常に溶け込んでいますが、その効能や入浴での利用については、意外と知られていません。炭酸泉ラボでは「知っているつもりで実は知らない炭酸泉の魅力」を、一般の方にわかりやすく伝えることを目指しています。
同じように「人体」もまた、何よりも身近な自分の体でありながら、その仕組みについて深く知っている人はほとんどいません。まして「解剖学」となると、難解で専門家のための学問と思われがちです。
そんな中、私の知人に宮本さんという方がいます。彼は疫学を専門とし医学博士の資格を持ちながら、毎日「解剖学」という難しい学問を誰にでもわかる形に噛み砕き、60秒の動画にまとめて投稿しています。なぜそのような活動を続けているのか。そこには、炭酸泉を伝える活動にも通じる大切な視点があるのではないかと思い、今回は直接お話を伺いました。

なぜ「解剖学」を一般の人に?
編集部
「数ある医学分野の中で、なぜ解剖学に注目し、それを一般の方に伝える活動を始めようと思われたのですか?」
宮本さん
「私は以前、8年ほど同志社大学生命医科学部で解剖概論の授業を担当していました。毎年、カリフォルニア大学アーヴァイン校で献体された標本を使った実習をしていたのですが、実際に触れると毎回のように“人間の体は驚くほどシンプルで、よくできている”と感じたんです。
心臓は拳ひとつ分しかない、胃は拳二つ程度、でも肝臓は拳四つ分もある。イメージとまるで違うんですよね。そこから調べると、一つ一つに必ず理由がある。アキレス腱上の静脈が心臓を補佐するポンプの役割をしていたり、肝臓は飢餓に耐える貯蔵庫だったり。知れば知るほど、人体の仕組みは驚きの連続でした。」
学生と共に体感した「人体の神秘」
編集部
「標本とはいえ、学生たちにとっては初めての体験だったと思います。彼らの反応はいかがでしたか?」
宮本さん
「多くの学生にとって、ご遺体を目の前にするのは初めてでしたが、標本はきれいに処理されていて、不快さよりも“驚き”の方が強かったと思います。『え、心臓ってこんなに小さいの?』『肝臓って思った以上に大きい』と声が上がっていました。私が最初に感じたのと同じで、“こんな仕組みが自分の体にあるのか”という発見にワクワクしている様子でした。」
60秒動画という挑戦
編集部
「その驚きを、今度は一般の方に伝えようと思われたのですね。」
宮本さん
「はい。今年の正月から365日投稿を始めました。“医学博士の解剖学60秒”と題して、毎回短い動画にまとめています。やってみてわかったのは、難しく語れば語るほど伝わらないということです。だから専門的な解剖学の細かい部分にこだわるのではなく、“人の体は実によくできている”というシンプルなメッセージで締めくくっています。」
視聴者から届いた声
編集部
「発信を続ける中で、視聴者からはどんな反応がありましたか?」
宮本さん
「Facebookで発信しているのですが、日頃の知り合いだけでなく、思いがけない人からも『見てるよ』と声をかけられることがあります。『難しいことを噛み砕いて話してくれるから理解できた』とか、『自分の体を大事にしようと思った』という感想も多いです。中には『これをきっかけに健康診断を受けました』という人もいました。そういう反応は本当に嬉しいですね。」
続けることで得られる成長
編集部
「毎日続けるのは大変だと思いますが、どうしてそこまで続けられるのでしょうか?」
宮本さん
「毎年テーマを変えて365日投稿しているんです。一昨年は『イタリア物語』、昨年は『科学の散歩道』、そして今年は解剖学。大きな目的があるわけではなく、ただ自分が楽しんでいるだけです。でも一年間、一つのテーマに絞って勉強を続けると、確実に自分自身がパワーアップしているのを実感できます。誰かのためというより、まず自分が学び、楽しむ。それが結果的に人の役に立つなら、それは嬉しいですよね」
炭酸泉をどう伝えるか
編集部
「今回の取材は『炭酸泉ラボ』での掲載が前提です。炭酸泉の魅力を伝えるにあたって、発信者としてどんな点を意識すべきだと思われますか?」
宮本さん
「まずは発信者自身が楽しむことです。理屈は大事ですが、理屈のための理屈に走ると伝わりません。医学的な説明もエビデンスが必要ですが、そればかりになると“アリの目”で細部しか見られなくなる。大切なのは“タカの目”で全体を俯瞰して伝えることです。
炭酸泉についても同じです。皮膚から二酸化炭素が吸収され、血中で化学反応を起こす…と生理学的な説明をしようと思えばいくらでもできます。でも、僕自身が炭酸泉を好きなのは“ぬるめのお湯でぼーっとできるから”。それで十分なんです。理屈より『気持ちいい』という体験こそが最大の魅力なんだと思います。」
伝える難しさをどう乗り越えるか
編集部
「炭酸泉も人体も、誰もが身近にあるのに構造や働きを知る人は少ない。しかも説明しようとすると専門用語に偏りがちです。その“伝える難しさ”についてはどう考えておられますか?」
宮本さん
「説明の順序と入り口を工夫しています。まずは誰もがイメージしやすい例から入り、難しい用語は避けます。“これは避けよう”と決めているのは、専門用語の羅列です。情報を正確に伝えることより、理解してもらうことを優先する。難しくしてしまうと、せっかくの興味がそこで途切れてしまうんです。」
結びにかえて
「人の体は実によくできている」──これは宮本さんが毎回の動画で締めくくる言葉です。
この一言は、解剖学だけでなく炭酸泉にもそのまま当てはまります。炭酸泉の良さを語るとき、科学的にどれだけ裏付けを並べても、最後に残るのは「気持ちいい」という体験です。
「炭酸泉は実によくできている」──、私たちもまた、難しい言葉ではなくシンプルな楽しさを発信し続けたいと思います。