心を奪われた炭酸泉の旅

心を奪われた炭酸泉の旅 泡の力に魅せられて

泡の力に魅せられて

島根県・三瓶山のふもとに、「小屋原温泉 熊谷旅館」という一軒の宿があります。元文年間(1736〜1740年)に湧き出したと伝えられる歴史ある温泉で、完全非加熱の源泉を使用した家族風呂が4つ備わっています。

湯には無数の炭酸の泡が肌に付着し、その様子を目で楽しむことができる贅沢な体験をしてきました。

泉質は「含二酸化炭素-ナトリウム-塩化物泉」特徴は、何と言っても二酸化炭素(炭酸)の濃度の高さ源泉温度は約36.7度とぬるめで、のぼせる心配もなく、長時間ゆったりと湯浴みができます。

私は、この熊谷旅館に宿泊したことがきっかけで、炭酸泉の魅力にすっかりはまってしまいました。今では、休みが取れるたびに全国の炭酸泉を巡るのが楽しみになっています。

長湯温泉の混雑と人気

大分県の長湯温泉は「日本一の炭酸泉の里」とも呼ばれており、数多くの温泉宿があります。なかでも日帰り入浴施設「ラムネ温泉館」は、常に多くの人でにぎわっています。

炭酸泉は健康効果が高いことで知られていますが、その泉温が比較的低いため、つい長湯になりがちです。多くの人が長時間入浴するため、回転が悪く、混雑しやすいのが難点といえるでしょう。

千原温泉の小さな湯船での出来事

島根県には、温泉マニア垂涎の「千原温泉があります。浴槽は非常に小さく、体育座りで6人入れるかどうかという広さです。

低温のお湯なので、一度入るとなかなか出たくなくなり、誰もが1時間以上湯につかっています。そのため、入浴のタイミングが悪いと1時間以上待つことに!ですから、入浴前には脱衣所の荷物の数をチェックしておかないと、裸になってから満員に気づき、引き返す羽目になるのでご注意を!

湯船の底からは、ボコボコとガスが吹き上がってきます。「夏場は息苦しくなるから扇風機を回して」といった注意書きもあるほどです。”極楽、極楽”と唱えながら本当に極楽行きになるとシャレにはなりません。しっかりと扇風機を回して湯船に浸かりました。

七里田温泉「下湯」での衝撃体験

大分県の七里田温泉には、「下湯(したんゆ)」したんゆという炭酸泉があります。ここは、推定日本一の炭酸濃度を誇る温泉です。

首までしっかり浸かっていたところ、あまりの炭酸濃度の高さに頭がぼーっとしてきて、あわてて上を向き深呼吸をしたことをよく覚えています。

炭酸泉豆知識

私が魅了されている炭酸泉は、炭酸ガスがお湯に溶け込んだ温泉。ぷつぷつと泡が肌にまとわりつくのが特徴です。

しかし、温泉法で「炭酸泉」と認められている温泉の数は、わずか0.5%にも満たない希少な存在です。

炭酸泉とよく混同される温泉に「炭酸水素塩泉」があります。こちらは炭酸ガス(CO₂)ではなく、炭酸水素イオン(HCO₃⁻)を多く含んでいる温泉。一般的には、美人の湯と呼ばれるナトリウム泉が多く、日本各地に数多く存在しています。

「炭酸泉」と「炭酸水素塩泉」はまったくの別物です。ですが稀に、前述の三瓶温泉のような両方の泉質をもった名泉もあります。以下に、炭酸水素塩泉でありながら炭酸ガスも豊富に含んだ名泉を紹介してみましょう。

湯楽亭「新赤湯」と炭酸泉の成分

熊本県の弓ヶ浜温泉「湯楽亭」には、「新赤湯」という炭酸泉があります。
この湯は、遊離炭酸ガスが1,000ppmを超えるほどの高濃度で、炭酸水素イオンもたっぷりと含まれています。

洞窟風呂もあり、さまざまなスタイルで湯を楽しめます。なんといっても新鮮な魚料理が美味しく、夕食の品数も豊富。風呂上がりのビールが進みました。

花山温泉と銀の湯の違い

和歌山県の花山温泉は、見た目はスーパー銭湯のようですが宿泊も可能。ここでは、炭酸ガスの圧力だけで自憤している超高濃度の天然炭酸泉が楽しめます。
部屋は質素ながら、南海の幸を使った料理がとても美味しくて、印象に残りました。

炭酸泉に入った後は体がぽかぽかと温まり、炭酸水素塩泉ではスッキリした感覚が残ります。どちらも爽快感と快適さがあり、特に夏はやみつきになること間違いありません。

移動の工夫と注意点

炭酸泉の多くは、公共交通機関ではアクセスしにくい場所にあります。そのため、レンタカーの利用がおすすめです。

とくに島根県・熊谷旅館に向かう際は「県道30号線」を通るルートが安全です。他の道を選んでしまうと、車1台がやっと通れるほどの細道が続き、ヒヤヒヤすることになります。実際、私もナビの案内でその細道を通り、崖から落ちそうになりながら進んだ経験があります。

幸い、現在は県道30号線の道幅も拡張工事が進んでおり、今後はより安心して訪れることができそうです。

旅のまとめとおすすめ

山あいの宿は、静かでのどかな雰囲気に包まれており、日ごろの疲れを癒してくれる絶好の場所です。

三瓶山周辺には、薬師湯亀の湯といった共同浴場も点在し、観光リフトや自然館など見どころも豊富。のんびりとした湯めぐりと観光を兼ねた旅が楽しめます。

まずは、自宅から行ける範囲で炭酸泉を探してみてはいかがでしょうか。
34〜37度程度のぬる湯にゆっくりと浸かれば、心身ともにリフレッシュできることを実感できるはずです。
(鄙びた温泉愛好家 草野真裕)